魔王が魔王たる理由

魔王:
プライド高いわりにメンタル弱い男

側近:
魔王の部下。優しい爺や

勇者:
プライド高いわりに体が弱い女子

仲間:
勇者の仲間。物知りなおばあさん


魔王:「よし! 秋だ! 涼しい季節になったから今年も人間界へ攻め入ろうぞ!」

側近:「涼しくなると、急に元気になりますなわが君は」

魔王:「夏は暑くてバテていたからな! もう元気じゃ!」

側近:「さて、ではどのように人間界に向かいましょうか?」

魔王:「ふむ、馬やドラゴン、移動魔法もいいが久しぶりに羽が伸ばしたい気分じゃ! 爺や、乗れい!」

側近:「ははあ、恐縮です」

魔王:「遠慮するな。しっかりと掴まれよ! 飛ぶぞ!」

側近:「あんなに幼かった魔王様がこんなに丈夫になって、お背中に乗せてもらえる日が来るとは爺や感激です」

そのころ人間界のとある宿では

勇者:「くっしゅん。ああ調子悪いわ」

仲間:「大丈夫ですか、勇者様。栄養を取って今日はお休みになられてはどうです?」

勇者:「いやでも、勇者として今日一日何の成果もないのは申し訳ないというか、くしゅん」

仲間:「ほらほら、鼻チーンとして」

勇者:「ああ、いつもすんません本当。でも、今日は晴れたし、ちょっと村の周りのモンスターを狩って、村に人にいいところ見せたいなって」

仲間:「実りの秋なのに作物の食害がすごいらしいですからね。じゃあちょっと頑張って弱めのモンスターを狩りましょうか」

勇者:「じゃあ、いざ冒険の旅へー」

仲間:「ほら体悪いんだから、そんな思い鎧脱いで、もっとあったかい格好して」

勇者:「格好つかないなあ、本当」

そして宿周辺の草むら

勇者:「ぶしゅん」

仲間:「くしゃみがとまりませんね」

勇者:「なんか外出たら急に鼻がムズムズしだしてさ」

仲間:「秋風も強いですし、風上からなんか飛んできているのかもしれませんね」

勇者:「はくしゅん」

仲間:「お、ちょうど風上の空に大きな影が新手のモンスターのようですね」

勇者:「ぶえっくっしょん。よーし勇者様頑張っちゃうぞ」

魔王:「おお、何やら眼下に人影が! 爺や、まずはあの者たちに目にもの見せてやろうぞ!」

側近:「ははあ、わが君の仰せのままに!」

魔王:「よし降りるぞ!」

勇者:「ぶええくしょん! べっくしょん!」

仲間:「あのすみません。そこのモンスターの方々」

魔王:「何か着陸する前に話しかけてきたぞ」

側近:「なんだ? 人間のものよ」

仲間:「そんなに羽ばたくとほこりが飛ぶのでやめてくれません? ほらうちの連れが」

勇者:「へしゅんへしゅん」

側近:「いかがしましょう魔王様。小生意気な口を利くやつを八つ裂きにしてやりましょうか」

魔王:「いや、うん」

側近:「どうしました? さっきまでの元気が嘘のようですが」

魔王:「いやあれだぞ? 人間たちの言うことなど、どうでもいいのだが俺の羽ってそんなにほこりっぽいのか?」

側近:「何を言われまする! そんなこと! 爺やを見てください! 魔王様の羽の近くでもくしゃみなどしません」

魔王:「そうであろう! そうであろう! よし着陸だあ!」

勇者:「へ? 何、なんか来たの? へちゅん。ほこりっぽ過ぎて目が開けられない」

魔王:「え?」

仲間:「ほらあ、病人なんですよ。勘弁してやってくださいよ。へっくしょん」

魔王:「え? 何で? もう羽ばたいてないのに」

勇者:「なにこれ? 視界がぼやけるというか黄色っぽい?」

仲間:「ああ、これは鱗粉ですね。蝶型のモンスターの羽に多いやつです。それに加えてちょっとカビっぽくもありますね」

魔王:「え? 俺の羽って鱗粉出てるの? それにカビって」

側近:「確かに先代魔王様譲りの羽は鱗粉攻撃が可能ですが、通常時は少しくらいしか」

魔王:「出てるんだ、鱗粉」

側近:「もう魔王様、しっかりしてください! 人間の言うことなど聞く必要はないのです。この方を誰と心得る!」

勇者:「よく見えないけど、鱗粉おじさん?」

側近:「違う! 魔王様だあ!」

魔王:「鱗粉おじさんって」

仲間:「勇者様、たしかに人相書きにそっくりですよ」

勇者:「ええ? 本当? へっしゅん。じゃあ鱗粉おじさんと魔王のパーティ?」

側近:「違う! 私ではなくこの方が魔王様だ!」

仲間:「偉そうに背中に乗ってたのに」

勇者:「ああ、鱗粉おじさんの方が魔王なんだ」

側近:「そう鱗粉おじさんのほうが魔王なんだ! 二度と間違えるでないぞ!」

魔王:「もう爺やも鱗粉おじさん言ったあ」

側近:「これはつい言葉のあやで」

魔王:「もういい! あの村人たちブッ倒してくれる!」

仲間:「ふっふふ、魔王とその手先め! 偶然だな、このお方を誰と心得る」

魔王:「え、病人?」

側近:「どう見てもそうですよね。風邪ひいているのに連れまわすのはよくないと思いますぞ?」

勇者:「違う! この私こそがへっぶちゅ、勇者様だ!」

仲間:「ほら鼻チーンてして」

魔王:「爺や、へぶちゅ勇者ってなんだ?」

側近:「たぶん、餃子○将的なものかと」

勇者:「違う! 私を飲食チェーン店と同じにするな、チェチュン」

仲間:「この方はれっきとした勇者様だ。ほらもう勇者様、くしゃみ出ますしマスクしましょうね」

魔王:「どう見ても病人ではないか」

勇者:「うっせえバーカ! いい年なのに爺やにおんぶにだっこの鱗粉おじさんに言われたくないもんね!」

魔王:「うるせえ! お前だって仲間に介護されてるであろう? 誰だよ、その婆さん」

仲間:「勇者様の専属医です」

魔王:「ほら病人じゃねえか」

勇者:「へちゅん、体が悪いのはなあ、そっちの鱗粉のせいだよ。魔王を名乗るならもっと正々堂々とした攻撃をしたらどうだ?」

魔王:「うるせえ、寝間着みたいな格好にカーディガン羽織ってるくせに」

勇者:「バーカ」

魔王:「あーほ」

二人はメンタルへの攻撃と体調の悪さと他なんやらで地に伏しながら互いに罵詈雑言を吐き続けた。

そして日が暮れる時間に。

仲間:「もう体に障りますし、帰りましょう」

側近:「今日のところは作戦を練るために引き返してもよいのでは?」

いったん退散することにした勇者一行に、魔王一行。

夕方の空に泣き声がえんえんと響き、多くの鱗粉が上空から降り注いだ。

村人:「べえっくしゅん。今年の花粉はひでえな」