【ブラコン】ブラコンな勇者の妹が最強すぎる

とうとうこの日がやってきた。
僕はこの北の果ての大地に辿り着くまでの日々を憂う。
魔王城の攻略も目前だろう。
魔王の腹心の部下を謳う4人の魔人は僕の仲間がそれぞれ足止めをして戦ってくれている。
僕しか魔王を倒せない。僕だけが振ることのできる「神殺しの剣」でしか魔王にダメージを与えられない。
僕が足を止めて体力を削り魔力を消費し、狂気にあてられることを危惧して、仲間たちは身体を張って僕を先へと進めようとする。――

幼い頃に盗賊に両親を殺された僕たち兄妹がスラム街に転がり込み、明日死ぬともしれぬ命を繋ぐ毎日が一転したのは「勇者募集」という王政から出された一枚の貼り紙のおかげだ。
報酬は100000000ドレ。僕たち兄妹が暮らしていくには一生あっても使い切れないかもしれないほどの額だ。
一縷の望みをかけて僕は王城へと向かい、勇者になりたいとそう志願した。

この世界には悪を体現化したような魔王がいて、魔王は人間の悲しみや苦しみから溢れる精神エネルギーを魔力に変えてどんどん強くなっていく。
魔物にさえ対抗できない人々が襲われて、魔王や魔人たちの蔓延らせる狂気に当てられた人々は凶暴化しやすくなる。
僕たちを襲った盗賊も恐らくはその被害者だ。
全ての原因は魔王にある。

魔王に一矢報いたい。僕らから平穏を奪った奴に復讐してやりたい。
王は「勇者ならば引き抜けるだろう」と黒曜石のように黒く輝く岩に刺さった白金に輝く剣を見せた。

僕は、それを引き抜けた。
僕もこれはまさか夢じゃないかとそう疑った。
剣はずしりと重く手に馴染むこともない。僕は剣など持ったことはない。
明日を生きるために握ったことがあるのはナイフだけだ。
王の周りにいた臣下たちも護衛の騎士たちも、皆が皆信じられないような顔で僕を見ていた。

「神殺しの剣」と呼ばれる100年もの間、誰にも引き抜けなかったはずの剣を引き抜いたことで僕の境遇は一気に変わった。
すぐに魔王討伐への旅に出るように王に命じられた。
報酬のうちの1/10は前報酬としてもらえるらしい。

妹はきっと心配するだろうからと、僕は短い手紙と前報酬から僅かな旅費だけを引いた殆どお金をおいて、王城に勤めていた騎士副団長とともに王国を出た。
「もし僕が生きて帰ってこられたら、街はずれの森のちかくに小さな家を建ててあの頃のように穏やかに暮らそう。」
手紙を書き終えると、先の見えない未来に僅かに光が差す気がした。
いくら神殺しと呼ばれるほどの素晴らしい剣を引き抜けても、剣の修行などしたことのない僕がどうなるかなどわからない。
僕は騎士副団長に鍛えられ、行く先々で装備を一新するために依頼をこなし魔物を討伐し、その依頼の中での出会いで仲間を増やしていったのだ。――

僕は目の前の魔王が居るであろう部屋へと続く扉に手をかける。
骸骨や剣の装飾がなされた重たい扉を腰をいれてぐ、と押す。
扉を開くと目の前にはレッドカーペットがしかれていて、両脇には数えられないほどの甲冑が立ち並んでいる。
扉の真正面を、僕は見据える。

「”神殺しの剣”などおとぎ話の世界にのみある人間が縋る神の偶像かと思っていたが、そうではなかったのか。お前のおかげでここ最近の人間どもは邪気をそう簡単に吐いてはくぬ、どうしてくれよう?」

魔王だ。
蒼白とさえいれるほどの白い額からはユニコーンにも似た角が生えていて、此方を睨む目は赤く鋭く煌めいている。
真っ黒なコートに身を包み、僕を見ると立ち上がり、不敵な笑みを浮かべて剣を構える。
僕も即座に「神殺しの剣」を構える。

「剣を構えるのが答えだろう? 僕たちはお前のおかげで両親を殺された! 幸せを奪われたんだ!」
「ほう……? 正義のためではないと? 大儀のためではないと? 復讐だと……それはずいぶんと、そうだな、泣きはらす人間よりもいい邪気だ」
「お前を殺せば僕ら兄妹のような悲しい犠牲者はもう出ない! お前を倒す!」

僕は魔王へと斬りかかる。
最初から全力でいくつもりで、駆け寄る間にパワーアップの魔法をかけて攻撃力を増し、騎士副団長から教えてもらった身捌きで剣を振り下ろす。

「ふふ、ふはははははっ! こんなものか? これが本当に”神殺し”か? 通らぬ、そんな刃は!」

初撃はいとも簡単に合わせられ、飛び掛かって斬りかかった僕は競り合いに押し負け簡単に吹き飛ばされた。
身体を壁へと叩きつけられ、甲冑の山へと崩れ落ちる。
追撃するようにそこへ雷系の魔法が降り注ぐように落とされた。

「一介の騎士とそう変わらんではないか、誰にも我は殺せぬのだ……!」

魔王の高笑いを聞きながら、僕はなんとか立ち上がるも身体がふらついていて無様極まりない。

「お前など我が剣を振るうまでもない、死ね」

魔王が壮大な魔法を展開し始めている。
膨大な魔力をかき集め、それは黒い渦となって視認できるほどだ。
まともに食らえば一溜まりもないのは目に見えていて、僕はそれでも回復魔法を詠唱する気力さえなく、剣に縋(すが)らねば立っていられないほどに瀕死だった。

「させない! お兄ちゃんは私が守る!」

妹の声がした。
目の前には膨大な魔力で築き上げられた重圧なベールが展開される。
防御結界だ。仲間の神官でさえきっとこんなものはできやしない。

「なんだ……なんだこの結界は……邪気が、なにも……」
「私のお兄ちゃんを虐めるなんて許さない、魔王だってなんだって構わない、神殺しの剣なんてどうでもいい、私にはお兄ちゃんがいてくれればそれで幸せなの!」

目の前には妹の姿が見える。
撃たれた魔法は結界の前で黒い結晶となって散り散りと消えた。
幻聴か、幻覚か、それとも今度こそ夢を見ているのだろうか?

「妹?」
「そうだよ、お兄ちゃん。助けに来たよ」
「どうして……こんなところまで、それになんでそんな魔法……」

妹はにっこりと笑みを見せる。
僕がその日食べるものも何も手に入れられなかったときも、お金が手に入って柔らかい白パンを持って帰ったときも、妹はそれと同じ笑みを浮かべるのだ。

「お兄ちゃんのためだから」

妹は魔王がしたのと似たように魔力を収縮させ、そして放った。
今まで誰にも傷つけられたことのなかったはずの魔王は、僕が剣を引き抜いたときよりも驚きに満ち溢れたまま魔力につぶされ消え去った。

「狂気とか瘴気とか、そんなの関係ないよ。こんな人どうだっていい。さあ帰ろう、お兄ちゃん。ふたりで幸せに暮らそう?」

僕たちはこうして魔王を討伐して凱旋するように王国へと帰った。
僕は姫様との結婚の話も、貴族に昇格する話も全て蹴って、街はずれの森に小さな家を建てて妹とふたりで暮らしている。
魔王を討伐したときに何が起きたのか、僕にはわからなかったが「妹はお兄ちゃんが好きだからだよ」とあの笑顔で言い退けるだけだった。
僕らはこうして小さな平穏を取り戻した。