これ買うわ!

カオリ:
20代。キャリアウーマン風のスタイルのいい女性。

通販番組の男:
深夜に放送されている通販番組の司会者

通販番組の女:
深夜に放送されている通販番組の助手

通販番組のオペレーター:
丁寧な物腰の女性


カオリ「あっ、いや、マニキュアがはげちゃってるじゃない! 昨日、1時間もかけて塗ったのに…。もう最悪。今日は、もう遅いから、はげてるところだけ隠して誤魔化さないと」

ドレッサーからマニキュアをとりだし、ため息をはくカオリ。

カオリ「あぁ~、これからどうしよう。めんどうな作業がいっぱいあるじゃない。とりあえず、なにか必要になるか1個ずつ考えていかないと…」

マニキュアを塗りつつ、リモコンでテレビをつける。

深夜なので、もう通販番組しか放送されていない。

その画面を、カオリは眺めつづけた。

通販番組の男「今回、最初にご紹介するのはコレ! なんでもスパスパ切れる三徳包丁です!」

カオリ「包丁?」

通販番組の男「長年培われてきた刀鍛冶の技術を丹精こめて、この三徳包丁に注ぎ込んだ一品です。みてください、この切れ味! ほらほらほら! このおいしそうな鮭を骨ごと輪切りにできちゃいます」

通販番組内の観覧者「おぉお~、すごぉ~い!」

カオリ「鮭を一匹買いする機会なんて、ないけど…」

通販番組の男「さらに。ほら、ほら見て見て! この分厚い木製のまな板も切れちゃうよ! あっという間に、まな板が粉々、ボロボロ!」

通販番組内の観覧者「うわぁ!」

カオリ「まな板をカットする必要もないけど…」

通販番組の男「さ・ら・に! まな板を切ったばかりの、この包丁で柔らかいトマトも…。見て! 力を入れなくてもスーって切れちゃう! 切れ味が全然落ちないの!」

カオリ「…」

通販番組の男「今なら、この三徳包丁を購入すると…。なんと、さらにもう1本! え~い、もう1本おまけにつけちゃえ! 全部で3本で、お値段据え置きの4980円!」

カオリ「これ買うわ! 3本もまとめて買えるなんて、助かるわ」

カオリは連絡先をメモするため、筆記用具を取りに立ち上がった。

通販番組の女「次の商品はキャリーバッグです。旅行のときに、とっても便利なキャリーバッグ。ですがバッグ自体が重くって、移動だけでクタクタに疲れちゃう女性って、意外と多いんですよね」

カオリ「そうよね。階段とかエスカレーターとか、けっこう使えないところって多いのよね」

通販番組の女「そんなか弱い女性のために作られたのが、こちら! 高さ約70センチ、幅50センチの大容量にもかかわらず、重さはたったの1キロ。ありえないほどの軽さです!」

カオリ「たしかに、この軽さはありえないわ!」

通販番組の女「このキャリーバッグ、どのぐらい大きいかというと…。ほら見てください! わたしがスッポリ入っちゃいそうじゃないですか!?」

カオリ「…」

通販番組の女「今なら、この長期旅行用のキャリーバッグ、なんとたったの6580円。もちろん送料無料です」

カオリ「これ買うわ!」

通販番組の女「しかも、今回はおまけにエコバッグをプレゼント! これがあれば、旅行先でお土産を買いすぎても安心です!」

カオリ「エコバッグ…。汚れたものや、包丁を入れるのに便利かしら? うん、絶対買うわ!」

通販番組の女「……000まで、お電話ください」

カオリ「あっ、電話番号を見逃しちゃったわ」

マニキュアを塗りながら、舌打ちをするカオリ。

だが、次の商品が紹介されると、食い入るようにテレビ画面を見つめつづけた。

通販番組の男「最期に紹介するのは、レインコートです」

カオリ「レインコート?」

通販番組の男「雨はもちろん、泥水もしっかりカバー。水をまったく通さないのに、空気はちゃんと通してくれる。だから蒸れる心配がない! 長時間着ていても快適!」

カオリ「作業すると長いことかかりそうだし…。蒸れないのは魅力的ね」

通販番組の男「今なら、同じ素材でできたレインズボンもセットで、990円! 1000円切っての特別価格!」

カオリ「安いわ。買っちゃいましょう。これ買うわ!」

通販番組の男「今夜は、3つの商品をご紹介しました。お電話は、こちらまで! 0120-……」

カオリは即座に電話をかけた。

通販のオペレーター「お電話ありがとうございます」

カオリ「さっき番組で紹介していた商品を全部ほしいんだけど」

通販のオペレーター「ありがとうございます」

カオリ「すぐに使いたいの! 一刻も早く発送してくれないかしら?」

通販のオペレーター「はい、すぐに発送可能ですので、翌日にはお届けできるかと思います」

カオリ「助かるわ!」

購入の手続きを終えて電話を切ったカオリは、安堵した表情で微笑んだ。

カオリ「あぁ、これで作業がスムーズに進むわね。運ぶ場所は…、富士の樹海がいいかしら? だったら、スコップもほしかったわね」

マニキュアを終えたカオリは、フフっと笑った。

カオリ「よし。抵抗されてはがれちゃったマニキュアも綺麗に直したし。お風呂にはいって汗と血を流そうかしらん」

バスルームに向かおうとして、ふとカオリは思い出した。

カオリ「そうだ! バスタブに、あの男がいるんだった。あぁ、邪魔ね。通販の商品が届かないと作業ができないから、それまでお風呂も入れないの?」

カオリの表情が苦々しくなる。

カオリ「ああ、もう、本当に邪魔な男! 殺しても殺したりないわっ!!」