救世主と英雄

アキト:
かつて邪神の手から世界を救った英雄

ユキナ:
魔神から世界を救うため、四大精霊に選ばれた


アキト「よぉ、無事か。こんな雑魚共にやられるとはな。先が思いやられるなぁ」

ユキナ「あ、なたは?!」

スライム状のモンスターに囲まれていた少女を助けたのは、刀を振り回す一人の男だった。少女には見覚えがあった。その男はかつて邪神から世界を救った英雄『アキト』だったのだから。

五年前、世界は邪神によって滅亡の危機に瀕していた。邪神が生み出すモンスターは強力で、国が抱える軍隊ですら手も足も出なかった。誰もが終わりを実感する中、颯爽と現れたのがアキト率いる名もなき騎士団だった。どこにも属さないアキト騎士団は圧倒的な力で、モンスターを次々と屠っていった。

彼らは邪神と敵対する神、女神によって力を与えられし精鋭部隊だったのだ。特にアキトは力を与えられる前から、名を馳せていた流浪の騎士。ゆえに本来の力量と相まって、モンスターでは太刀打ちできないステージへ上り詰めた。

アキトは三人の仲間と共に元凶たる存在、邪神と対決。長きに渡る戦いの末、ついに滅ぼすことに成功した、邪神がいなくなった今、世界には平和が戻った……はずだった。人類は知らなかった。女神が一体何者なのかを。

一年前、女神は本当の正体を現した。女神は邪神と対を成す『魔神』だった。邪魔な邪神をアキトたちを使って滅ぼし、自分が世界の支配者になることが目的だったのだ。アキト騎士団は女神――魔神に挑むも歯が立たなかった。――神に与えられた力を失ったのだから。魔神の手助けがなければ、邪神を滅ぼすことすら難しかっただろう。

邪神よりも強力な魔神の前にやぶれたアキト騎士団は生死不明となり、世界はまた絶望の淵に立たされた。そんな中、人類の平和を願う四体の精霊が出現し、一人の少女を選んだ。彼女は火・水・土・風、四属性に適応した稀有な存在だったのだ。

かくして四属性に選ばれた少女は世界を救うため、魔神討伐の旅へ出発することとなった。

ユキナ「英雄『アキト』生きていたのね」

アキト「英雄をなめんなよ。そう簡単に死ぬわけないさ」

ユキナ「だったらなぜ、今まで姿を現さなかったの? この一年あなたは一体何を?」

アキト「俺が英雄だったのは過去の話だ。俺に邪神を倒したときのような力はない。だから修行してたのさ」

ユキナ「修行?」

アキト「あぁ、借り物の力じゃなく、俺自身の手でモンスター共と渡り合えるようにな。もう誰にも負ける気はない」

ユキナ「そうだったの。心強いわ。私一人じゃ心細くて、どうすればいいか分からなかったの。私には戦った経験なんてないし、四大精霊に選ばれたといっても私自身が弱いんじゃ意味がない。宝の持ち腐れもいいところよ」

アキト「ほう。じゃあ俺が戦えるように鍛えてやる。俺も一人で魔神に勝てる自信はねぇ。他の騎士団の居場所も分かんないし、お前だけが頼みの綱だ」

ユキナ「英雄がいれば千人力だわ」

アキト「千人力? 今の俺は万人力といっても過言じゃないぜ?」

ユキナ「そう」

アキト「なんか呆れた顔してねぇ?」

ユキナ「気のせいよ。世界を救った英雄にそんな顔なんてしないわ」

アキト「だよな。俺英雄だし」

ユキナ「えぇ、頼りにしてるわ」

――二ヵ月後。

ユキナ「火よ水よ風よ土よ。我が名の下にその力を示せ」

モンスター「ぐぎゃああああ!」

アキト「……」

ユキナ「ボケッとしてないで手伝いなさい」

アキト「うん。俺の助けいる?」

ユキナ「猫の手も借りたいくらいよ」

アキト「俺を頼りになんて、もうしてないよなお前」

ユキナ「自分の才能が恐ろしいわ。上級モンスターも一撃で倒せるようになるとは。さすが四大精霊に選ばれただけのことはあるわ私」

アキト「俺も精霊に選ばれたかった。そうすれば魔法を使えるようになったかもしれねぇのに」

ユキナ「刀一本で上級モンスターと渡り合うほうがすごいと思うけど?」

アキト「刀一本じゃ倒すのに時間かかるんだよな。一気に倒したいときってあるだろ?」

ユキナ「今じゃ私のほうが強いかも」

アキト「それは絶対無い……と言い切れないのが辛い」

ユキナ「私がいれば、もう魔神なんて敵じゃないわね」

アキト「頼りにしてるぜ救世主殿」

ユキナ「私も頼りにしてるわよ英雄さん」

さらに二ヶ月。

魔神「生きていたのですかアキトよ。しぶとい男ですね」

アキト「よう。リベンジしに来たぜ」

魔神「私の力であなたは英雄になったのですよ? 今のあなたは私どころか、邪神の敵ですらありません。今度こそ息の根を止めて差し上げます」

アキト「そうはならねえよ」

ユキナ「だって私がいるもの。四大精霊の力と私の凄まじい才能の前にあなたは敗れるのよ」

アキト「俺も戦うんだけど」

ユキナ「私についてきなさい!」

魔神「来なさい。返り討ちにしてあげます」

ユキナ「必殺『グランドマザー(大地の母)』」

魔神「くっ、やりますね!」

ユキナ「あなたもね」

アキト「俺の存在忘れてるだろ、お前ら」

一閃。アキトの刀はあっさりと魔神の左腕を切断した。

魔神「そんなバカな! どうして?」

アキト「決まってるだろ? 俺は……」

ユキナ「アキトは英雄なのよ。上回って当然。舐めすぎよ」

アキト「俺に言わせろよな」

目に見えないほどのスピードで刀が煌く。右腕、左足、右足、次々と切断されていく。

魔神「くっ」

ユキナ「逃がさないわよ」

四つの光が魔神を包む。天高く上る光の柱。魔神は悲鳴を上げ、塵となって消えた。

ユキナ「討伐完了」

アキト「リベンジ成功」

世界には再び平和が戻った。

――半月後。

神父「愛することを誓いますか?」

ユキナ「誓うわ」

アキト「誓う」

神父「では誓いのキスを」

ユキナ「ちゅっ」

民衆「うおおおー」

こうして人類を救った救世主と英雄は伝説のカップルとして後世に語り継がれることになる。